スウエーデンのストックホルムのホテルで、いつものように早めの朝食、ということで、エレベーターに乗った。上階から降りてきたエレベータには、ひとりの男性が乗っていた。「おはようございます」、と英語であいさつすると、相手も「おはよう」という。発音からして、英語ネイティブではないようだ。背が低く、しかし、眼光鋭い男性だった。
レストランのある二階でエレベーターを降りると、「ひとりですか?」、というので、「はい」と返事をすると、椅子をひきながら、「一緒にどう?」と誘ってくれた。で着席。そのあとゆっくり、ゆっくりの英語での会話。実は、何を話していたか、まるで覚えていない。ただ、その男性が、あの有名な哲学者サルトル氏であることは、後で知った。
迎えにきてくれたスウエーデンの友人が、「知り合いか」と尋ねるので、たまたま朝食をいっしょしただけ、と答えると「あの人、サルトルだよ」、と教えてくれた。
このことを、中央大学の哲学のM教授(ヤスパース研究の第一人者)に話すと、いろいろ尋ねられたが、サルトル氏なんて意識がなかったし、そもそも、サルトルさんの実存主義なんてえのも、読んだこともなければ、まるで無知だった。
ただ、ジャンポール・サルトル氏と、ストックホルムのホテルで、朝食を共にした、ということは、事実、史実というのかな。
これも、記憶のコレクションのひとつである。
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